EP1-08 予想外

創作 第一章 大魔女試練編
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✸前回までのあらすじ✸

魔法を操る「魔術師」、「魔女」らが存在する魔界。そんな世界で、魔女の憧れの存在、「大魔女」になることを、「月の魔女」ダイアナは親友で「魔の魔女」シャロと共に志していた。そして、二人は魔界に忍び寄る「異変」の存在に感づいてもいたのだった。
ある日、半年に一度行われる「大魔女試練」と呼ばれる大魔女になるための試験が実施され、二人は最終試験を受ける段階にまで進む。だが、そこにはなぜかシャロの姿が無かった。
最終試験を受け始めたダイアナは、最初の出題者、大魔女ライノーの試練に合格し、次は自分の母である大魔女レトナの試験を受けようとする。しかし、もう一人の大魔女、ソリエルの試験を先に受けることに。
彼女が出した試験内容はなんと、「人間界で、人間に魔術指導を二年間すること」という予想外のものなのだった。





「えーーーーーーーっ!!?」

流石にびっくりしてしまった私は、月の地区と堕の地区の境界あたりの上空で、ここ数年で一番の大声をあげてしまった。少し遠くを飛んでいた魔女達も、こちらをちらりと見やるくらいには大きな声を出してしまった…
けれど、そんな私を見てもお構いなしに、ソリエル様はそのまま話を進めていく。

「うん!驚くよね!頑張れ!」

「えっ、そっ、なっ……人間界ですか!?」

「そうだよー、私が指定した子の面倒を見るのと、魔術指導をしてほしいんだ!」

「え、えええええええ…」

(人間界になんてほとんど行ったことないのに…最後に行ったのは4年くらい前なんじゃ?)

魔女が人間界へ行くことができるのは本当に稀。私が通っていた_魔女のほとんどが子供の頃通っていた魔女学校では、五年生になったら修学旅行として人間界へ数日間だけ入界することができた。ほとんどの魔女が、人間界へ行くことができる機会はこの修学旅行だけというケースだということはよく知られているの。
なのに、まさかまた人間界へ行く機会があるなんて。しかも、大魔女試練の一環で!

「大丈夫大丈夫!人間界は自分が魔女だってバレない限り、すごくいい土地なのは知ってるでしょ?そりゃ、危ない土地もいっぱいあるけどさ、心配しないで!そんな所には行かせないよ!」

「は、はあ…因みに、修学旅行で行った土地と同じ場所ですか?」

人間界へ行かなければならないことはとりあえず受け入れた私は、質問攻めをしておくことにした。
私はどんな内容でも受け入れる覚悟は決めてきたんだから。

「同じ国だけど、地域は違うよ!でも、ほぼ気候や環境は同じかな。」

「あと、合格の基準は?試練内容が思っていたより曖昧だと思いまして。」

「そうだね、結構細かく記載したのを後でティターナ屋敷に書類で送っておこうかな。」

「ありがとうございます。あ、人間界への移住期間はぴったり二年ですか?」

「場合にもよるけど、最低でも二年かな?と思ってるよ〜」

「や、やっぱり長いですね…あと、」

そして、そのままおよそ一時間が経過。
流石にソリエル様もぐったりして空中で仰向きになる始末。…急に質問をしすぎたかしら。

「……こ…これで終わりかな……?」

「あ、これで最後です。どうして人間界で二年間生き抜け、などではなく、指定者への魔術指導が試験内容なのでしょうか?」

「…あー、確かに言ってなかったね。」

最も疑問に思っていたことを最後に聞くと、疲れた様子のソリエル様も納得したように頷いた。

「確かに、なんかめんどくさい内容になっちゃったね。ごめんね?でも、実はこれ、とある大魔女からの依頼を元にした試練内容なんだよね。だから細かいことはその人に聞いてほしいなって。」

「…えっ?ソリエル様自身が出題した試練ではない、ということですか?」

「そう!その通り!」

そ、そういうのもアリだとは。この大魔女試練ってさっきのライノー様のように、大魔女様が受験生に、本人が与えた独自の試験を与えて合格かどうかを決めるものだけだと思っていたけれど、本人が了承しているのなら他の大魔女様が出題したものを出題するのもアリなのね…

(ソリエル様らしいめんどくさい内容だなって思っていたのに、まさか別の大魔女様のものだったとは。お会いしたときに謝っておかないと…)

「アナちゃん、いまなんか失礼なこと考えた?」

「確実に気の所為ですよ。それより、その方はどなたなんですか?ぜひお会いしたいのですが。」

「うん?…あは、これから嫌というほど会えるし話せるんじゃないかな?だって、その大魔女、…ううん、元・大魔女は、魔術指導指定者の母親だからね!」

「えっ!」

「あ、私の大親友だよ。」

「ええっ!」

「あー、あとね、魔界出身の魔女じゃないよ。生粋の人間。世にも珍しい、人間なのに魔術が使える魔女なんだよね。その親友。」

「えええっ!」

(つ、つまり、ソリエル様が出した試練はソリエル様の大親友の方が依頼したもので、しかも試練内容である『指定された者の面倒を見て、魔術を指導する』の対象者はそのお子様…しかも生粋の人間!)

魔界生まれではない生粋の人間が魔術を使える、という事例は最近になって増えてきたみたいで、私もその存在は知っていたわ。それでも、人間の総人口の0.01%にも満たない人数だと聞いた気がするのだけれど…かなり稀有な方なのね…

「よ…よくわかりました…?」

「あは、困惑するのも無理はないよ。ユ…その魔女は本当に、凄い子だから。」

「そうなんですか?」

「うん!会ってみたらきっと分かるよ!」

(ソリエル様がこんなに称賛するなんて本当に凄い大魔女様なんでしょうね…あれ、人間?ええと、人間かつ魔女ね。…あら、人間なのに魔術を使えるような人は、私達と同じ「魔法使い」の部類には入らないのかしら…?)

と一人で考えていると。

「さっきも言った通り、詳しくはティターナ家の屋敷に書類を送ろうと思ってるから。それを見て、準備ができたらいつでも呼んでほしい!その時は最終確認のために、すぐに屋敷に行くよ!」

「わ、分かりました!まずはその書類を詳しく読んでみようと思います!」

私の返事を聞き終わると同時に、ソリエル様は堕の地区に向かって、少しスピードを上げて飛び去っていった。

「ありがとう!それじゃあ、まったねー!!」

(…なるほど、私が一時間も質問攻めしてしまったから、ルミカちゃんが先に帰っちゃってないかを心配してるのね…一緒に帰ろうと思っていたようだったから…)

ルミカちゃんというのは私達、魔女の中で高い魔術技術、多くの魔力量を持つ上位17名の集まりである「17長」の仲間で、そして17長の長を勤める、魔女学校3年生の女の子。
彼女はなんと、世にも珍しい「堕の魔女」。普通、月の魔女からは月の魔女、魔の魔女からは魔の魔女、というように同じ属性の魔力を持つ子供しか生まれないのだけれど、なぜか太陽の大魔女だけ例外。

堕の魔女には2種類あって、代々堕の魔力を持って生まれてくるエリゴル家一族、そして、太陽の大魔女のみから極稀に生まれてくる、突然変異種である堕の魔女。彼女のお母様のソリエル様は太陽の大魔女だから、その条件に当てはまっている。
そして、堕の魔女は他の四属性の魔女に比べて、生まれつき圧倒的な多さの魔力や、その他にも有利な能力を持っているらしいわ。五歳年下の彼女とは、学生時代から交流があったの。

(彼女とは直近の魔女集会以来会っていないし、最近は堕の地区で何か忙しいみたい。何か、グレシアさんと一緒にやっていることがあるのかしら。
…それにしても、最短で二年は帰らない、ね。ってことは、魔女集会に出席もできない?………えええ…)

二年後…帰ってくる頃には23歳。ロラは6歳、ソルは11歳。なんだか、そう考えるととてつもなく長い時間に感じるわ。

「…あれ、それじゃあ、私がいない間は…」






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「「「えーーーーーーーっ!!?」」」

家に帰ってソリエル様の試験内容を報告してすぐに、家族は数時間前の私と同様に大声をあげた。

「うん、驚くよね…」

あっ…うるうると目を潤ませているロラが、今にも泣きそうな顔をして私を見つめてる。
でも、泣くのを我慢できて偉い!可愛いわ!

「おねえさまーーっ、頑張ってくださいっ!ロラ、さみしいけどおうえんします!」

「うわわっ」

泣くのを我慢してちょっと変な顔になっているロラが、ぎゅーっと抱きついてきた。

「ありがとうロラ〜!帰ってくるのは二年後になっちゃうけどね、そんなのあっという間よ。すぐに帰ってきて、その後にはお母様の試練もすぐに乗り越えて、立派な大魔女として頑張るわ。…だからえっと、手の力、弱めてくれるかな?」

「うーーーーーっ、離れたくないですーー!!」

「ええーー〜…」

お父様に助けを求めようと視線を向けるも、お父様も強く頷いていた。

「ダイアナ。」

「は、はい、お父様。」

「頑張ってきなさい。今までのお前の実力や経験、努力なら、大魔女になれるとお父さんは信じて、いや、確信しているよ。」

「…!ありがとう!」

「ああそれから…体に気をつけて、向こうではここと気候も違うだろうから、あと手紙を月に一度は送るように、向こうでの近況を詳しく書いてくれ、それから…」

「もう、お父様!落ち着いて!」

見た目が堅そうに見えて過保護なのは相変わらずみたい。

…でも、この生活もこの後の二年はなくなっちゃう、と思うと少し寂しくなる。

「ねぇお父様、ソルは?もしかして、また具合が悪くなっちゃったの?」

「ああ、そうなんだ。最近はいつにも増して酷くなっているみたいだな…今は寝室で休んでいるよ。ダイアナの出発の日までには、回復していれば良いんだが。」

弟のソル…12個下のソールは、ここ数年は具合が悪いみたいで、すぐに体が疲れてしまうらしく、寝込んでしまうの。

(昔はそんなことはなかったのに…心配だわ。私が帰ってくる頃には治っていればいいんだけど…)

「…ねぇダイアナ。」

今まで黙っていたお母様が、私の方を真っ直ぐに見つめて話しかける。

「後で少し、話をしてもいい?」

「今すぐに、ここでしましょう、お母様。」

キッパリ言い放つと、うっ、と苦笑いをしたお母様は、渋々といったようにそのまま話をしてくれた。
だって、先延ばしにしたらまた、ずーっと先延ばしにされそうなんだもの…

「ダイアナ、ソリエルちゃんが出した二年の試験は、正直とても長くて過酷なものだと思うの。実は、あの子から事前にこの試験の話を聞いていてね。どうしても変えられないか、もう少し短期間のものは、ってお願いしても、やっぱり駄目なんですって。」

「……ええ。」

「ライノーちゃんの試験もかなりキツかったと思う。今度の試験は長期間で、合格できるかが本当に、私には分からない。…ダイアナのことを信じていない訳なんてない。でも、この試験の結末の、見当がつかないの。
だからね、私からの試験…最後の試験は、あなたが2年後にここに帰ってきた時、その時の状態で、決めようと思うの。

「ええ、分かりました。」

「…?怒らないの?試験をわざと、簡単なものにする可能性だってあるのよ?そんなの、あなたは納得…」

「ああ、そんなことですか?ふふ、大丈夫ですよ。関係ありません。
_私、万全の状態で…なんなら今までよりも成長して、どんなお母様の試験でも合格できる自信があります!

「…!」

「それに、お母様は心配し過ぎなんです。私、学校を卒業してもう3年の、21歳。もう自立くらいできますよ!それに、向こうにはお世話になる人間の方もいるわ。過保護過ぎます!」

「そう…ね。ふふ、私もこれを機に、心配性を治したほうがいいかしら!」

「それがいいですよ!」

ふふふ、とつい笑いを漏らすと、

「そうです!おねえさまならぜーーったい、合格できます!」

「ダイアナ、2年後にまた会おう。それまでお父さんも、立派になったダイアナを迎えられるようにここで待ってる。」

「みんな…ありがとう!」

ああ、温かい。
やっぱり、信頼されている、愛されている、というこの感覚は…とても嬉しいもの。
もっと頑張ろうと思える。もっと尽くそうと思える。何だって、出来るように思える。
私は…この感覚を味わうために、生きているとも言える…

「ダイアナ、今日はもう遅いわ、休みましょう。さっきソリエルちゃんから貴女宛に、封筒に入った分厚い書類が届いていたから渡しておくわね。これを見て、もう寝なさい。」

「ありがとう、分かりました。みんな、おやすみなさい!」

「「「おやすみなさい」」」








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(そうだ、明日シャロに会ったらこの事を伝えないと!)

自室に戻って書類を読みながらゆっくりできた私は、ここでようやくシャロのことを考える余裕ができた。
しっかりしているあの子が試験の存在を忘れることなんてあり得ない。寝坊した、なんてこともないはず。…ああ、遠くの場所にいても連絡が取り合えるような手段が存在すればいいのに…一部の大魔女様だったら、そんなものを持っていたりするのかしら?

(それにしてもシャロ、本当にどうして試験会場に来なかったのかしら?あの後結局、一度も会うことが出来なかったのだけど、遅れて会場に来てすれ違った…?でも、ソリエル様は特に何も言っていなかったし…)

とりあえず、明日まずやることは一つ。

「明日、もう一度シャロの家に行ってみましょう。」





―――――――――――――――――――――――――――――――――





場所は変わり、魔界のとある地。

「ぅ……あれ、ここは…」

やっとお目覚めか?随分と遅かったな。

左から低い声がして、反射的に右側へのけぞってしまう。が、右側にも人が。
…二名のローブを羽織った人物が、拘束され椅子に座らされた私_シャロ=アミーツの左右に佇んでいる。

(なんなんだこの人たちは?確か私は試験会場に向かおうとして、家を出て……その後の記憶がないな。まさか、この人たちに攫われた…?
うーん、とても薄暗い場所だ…ここがどこかの見当がつかない。左側の人物の言葉をそのまま飲み込むと時間は経っているらしいし、もしかすると魔の地区ではないのかもしれない。この辺りに漂っている魔力の気配でどの魔力の魔女が多くいるのかが分かれば、せめてどこの地区にいるかだけでも分かるんじゃないかな?)

「この状況の割に、酷く落ち着いているな。流石17長の魔女と言ったところか。」

今度は右側に立っている方の人物が話す。私の身元はやっぱり知られているのか…

「君たち、私をどうするつもりだ?何の意図があってこんな場所に私を?そもそも、なぜ私なんだ。」

「やけに落ち着いているし、加えて質問攻め…結構厄介そうですね。」

ふぅ、とため息をついて肩をすくめた右側の人物が、左側の人物に敬語を使っている。左側のほうが権力が有るのか。
…そもそも、両手両足をなんらかの術を加えた縄でギチギチに縛られて、魔術を使うこともできなくなってしまっているのに、抵抗なんてできるはずがない。内心、全く落ち着いてなんていない。

「もう少し取り乱すものかと思っていたよ。大事な大魔女試練の日にこんな目に遭ったんだから。」

「いや取り乱してるに決まってるだろう。なんでよりによって今日なんだよ。私達大魔女志願者にとって今日はとんでもなく重要な日なんだぞ。日を改めてほしいくらいだ。もし君たちが魔女なんだったら、配慮の無さを疑うね!こんな拉致事件を起こすのだったら、日程をもっと考えるべきだった!」

「ああ、うるさい!私も魔女だ、それくらいは分かってるよ!」

右側の人物は、どうやら魔女のようだ。今自分で明かしたし…

(それにしてもこの右側の方の魔女、どこかで見たことがあるような…)

「…待てよ?まさか、君は…」

「…貴方は私を知らない。私も貴方を知らない。そうだろう?」

「いや、でも君は…!」

_これ以上騒ぐと、大事なお友だちにも同じ目に遭ってもらうことになるぞ。

はじめに一言話したきり、今まで何も話さなかった左側の人物の低い声が、思わず私の身を震わせる。
声をなんらかの術で変えているのか、無機質な感じのするその声はかなり不気味だ。

「……分かったよ。大人しくしておけばいいんだろう。彼女が拉致されるのは困る。彼女は…私よりもずっと大魔女になる可能性が高くて、ずっと前から大魔女を志願していた子なんだから…」

「困る、ね…」

ふぅ、と右側の魔女…いや、ついさっき正体が分かってしまったのだが、彼女は小さくため息をつくと、

「私は、ダイアナ=ティターナに大魔女になられるのが一番、『困る』んだよ…」

と言うと、それっきり口をきかなくなってしまった。

代わりに、左側の低い声の人物が何やらごそごそと動き出した。
何か、手のひらに収まるくらいのサイズのものを耳に当てて、小声で話している。

(…魔界にも存在しない、遠くの人物と会話ができる装置…?もしかしてこの人物は、魔界の者ですらなかったりして…)

耳を澄まして、何か聞こえないかどうか試してみる。

「……聞……るか?お前……こ…まま……で待機し……」

今のは、装置から僅かに聞こえた声。

了解しました。

そして、こちらは左側の人物自身が小声で発した声。まだ、上の奴がいるのか…

「君たちは……一体、何者なんだよ…」

睨みつけて、会話を終了した左側の人物を見つめても、同じように睨みつけられ、無言で無視を貫かれてしまったのだった。


次回 第九話「魔術師の少年」

※編集忘れをした部分があったため、少し訂正されています。

ハノウ


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