🎄マジック・イルミネーション🎅【クリスマス特別書き下ろし小説】
創作 裕香の記憶の欠片 クリスマス最高ランク : 40 , 更新: 2023/12/25 8:09:56
千聖裕香は一匹狼な人間の少女である。
友人は少なく人付き合いもあまり好まず、だからこんな特別な日にも街中を一人ぼっちで歩いている。
「…さむ…」
この時代に「クリぼっち」という名称が存在したならば、彼女はそう呼ばれていただろう。彼女が生きる1985年にそれが存在しているとは思えないが。
さて、この10歳になったばかりの少女・裕香は周りの人々を横目で見ながら少し憂鬱な気分になっていた。
(………今日はクリスマス。やっぱり楽しそうな人が多いな。)
現代では、クリスマスに楽しそうにしている人々―主にカップルなど―を目の敵にし、リア充爆発しろ!と叫ぶ者や、どうせ自分はクリぼっちだ、と悲しげに自嘲しながら、インターネットの海を冬にも関わらずサーフィンする者などが存在するが、裕香はそのどちらでもなかった。
「智子、風邪ひいてたのかな…」
ふうぅ、と思わずため息をつくと、裕香の小さな口から白い息がふわりと溢れ、冷え冷えとした冷たい風が裕香の顎まで伸びた黒髪をなびかせ、裕香はぶるるっと身体を震わせる。
(うう、さむっ…)
実は、裕香はついさっきまで、「クリぼっち」ではなかった。
数少ない友達、智子の大きな家で智子の友達数人と一緒にクリスマスパーティーを行う予定だったのだ。
人付き合いが苦手な彼女だが、友人にパーティーに誘ってもらえた事はかなり嬉しかったのだ。
だが、裕香は今、とぼとぼと帰っている途中だった。
「お、裕香ちゃん!こんな所で一人でどうしたんだい?」
「あ、八百屋のおじさん…」
街を歩いているうちに、裕香は家の近くの商店街に辿り着いていた。
話しかけてきた顔見知りの少し毛の薄い八百屋のおじさんは、憂鬱な顔をしている裕香にはお構いなしでペラペラと話し始めた。
「今日はほら、クリスマスだろ?こんな日はみぃんなクリスマスケーキやらチキンやら買いやがって…全く、野菜の出番がありゃしねぇ。おかげで今日は売上がいつもの半分さ!」
「それは…大変だね。」
「だろ?…お、そうだ。」
おじさん―裕香は知らなかったが彼の名を志乃という―は名案を思いついた、といわんばかりの少年のような笑顔でこう提案したのだ。
「なぁ裕香ちゃん。後で俺のとびきりの商品を沢山やるから、客寄せパンダを引き受けてくんねぇか?」
「ぱんだ…?パンダになるの?」
「んー、簡単に言やぁ、いっぱい裕香ちゃんの得意な…マジックで、いっぱい人を呼んでほしいってことよ。」
「…マジック。」
裕香はそこで初めて俯いていた顔を上げた。そして、数秒考えた。
(まだ3時だし…時間あるし。お母さんに言われた時間に帰ってくれば…)
「うん。ちょっとならいいよ。」
「よく言ってくれた!」
瞬き一つしている間に、裕香は志乃の前に立たされ、彼の大きな両手で耳を塞がれた。
「商店街の皆様ァ!!メリークリスマァァス!!!!」
「あ、八百屋のシノだ。」
「なんだようっせーなシノ〜、今日ぐらいアメリカンな気分にさせてくれよ〜」
「いやアメリカとクリスマスって関係あるのか?」
「でも志乃んとこの八百屋よりはアメリカ感あるだろ」
志乃は商店街中の人々からの人望が厚かった。故に、人自体はすぐに集まってくる。
とはいえ、クリスマスに大根やら人参やらを買う人々は少ないようだ。
「この嬢ちゃんが今からとある芸を披露してくれる!少しでもあっぱれ!と思ったら嬢ちゃんと俺のためにうちの野菜を買ってくれ〜!」
「お?なんか面白そうじゃん」
「芸ってなんだ?」
「え〜、芸があんまりだったら買わなくていい?」
ざわめく人々。徐々に増えていく観衆。裕香は徐々に自分の緊張感を全身で感じる。
そしてその時、既に”舞台に立つ準備”ができていた。
「――It's MAGIC!」
「うわ!?」
「なんだなんだ!?」
突然俯いていた裕香が叫ぶと同時に、その場にいる人々の視界がビビッドカラーになった。
裕香は赤、緑のクリスマスカラーだけでなく、何色もの色とりどりの布を何もない空間から取り出す。
そしてそれを自由自在に操り、人々の注意を引き付けるのだ。
「皆様、メリークリスマス!そして、わたしのマジックショーを見ている全ての方へ感謝を!」
「ショー?」
「ショーどころか、これじゃあ何にも見えねぇよ!」
「失礼。それではご覧に入れましょう…」
操られ観衆を覆っていた無数の布がバサッと中を舞い、それがまるでブラックホールに吸い込まれたかのように一箇所に集まると、裕香の手中に収まり、布ではない”何か”へ変化する。
「なんだあれ、どうなってんだ!?」
奇妙なマジックをしている、術者の裕香を見た観衆は息を呑んだ。
裕香のターコイズブルーの瞳は、自信と喜悦に溢れ光り輝いていた。
先程まで憂鬱そうにきゅっと結ばれていた口は、三日月形に口角が吊り上がっている。
この小さなマジシャンは、マジックのお披露目―ショーをする時だけまるで別人のように人が変わるのだ。
「……!」
「なんだこの子は…」
「…すっげえな!!」
人々の困惑の声は、次第に歓声に変わり、そしてその場にいた全員の顔が笑顔になる。
裕香は、この瞬間を待っていた。
「It's MAGIC!!!」
裕香が叫んだ途端、次は視界が真っ白になる。これは先程の布によるものではなかった。
「今度は何だ!」
「あ、上!」
それは空から舞い落ちる美しい雪のような。天高く輝くシャンデリアの煌めきのような。
そんな、表面が淡く光り輝いている透明な”何か”が、無数に上空から落下してきた。
「あれは硝子…か…?」
「え、でもこれこっちに落ちっ…あれ?」
落ちてきたら怪我をしないか、と慌てて身を守る者がいたが、そのような事態にはならず。代わりに、それらは人々の近くまで落ちてくるとぴたり、と動きを止めてその場に停止している。
「え、なにコレ?止まってる!?」
「ママぁ、これきらきら!さわっていーい?」
「あ、ちょっと…!」
興味津々な観衆の一人、幼い少年がその”何か”に触れる。母親が止めても間に合わない。
その瞬間!
「わああ〜!」
「なんだ!?硝子がプレゼント箱に!?」
手のひらサイズの大きさだった硝子のような”何か”は少年が触れた途端霧のように白い気体を発したかと思えば、今度は両手を目一杯広げてやっと持てるサイズのプレゼント箱に変化したのである。
「オイオイ冗談だろ、他のやつも触ってみろよ!」
「これもプレゼント箱になったよ!?」
「本当にどういう仕組みなの!?」
もう数人、数十人の人混みではなかった。
裕香のマジックを観た人々が歓声を上げ、その度に他の人々がつられてやって来る。
数え切れない人々の前で裕香は自信たっぷりな表情を浮かべ、両手を目一杯広げるとこう叫ぶ。
「タネも仕掛も、ございません!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「おじさん、良かったね。」
約30分後。八百屋前ではマジックを思う存分に披露できてにこにこしている裕香の隣で、さらにご機嫌でブンブンと頷く志乃の姿があった。
「本当にありがとな〜裕香ちゃん!…でもなぁ、本当に申し訳ねぇんだが…」
志乃は頭の髪のない部分をポリポリと掻き、目をすい〜と逸らす。彼の後ろめたいときの癖である。
とびきりの商品をやる、と言った志乃だが、店の商品―彼の野菜はなんと、全て売り切れてしまったのだ。
「ううん、わたしもすごく楽しめたしお礼なんていらないよ。」
「いや、でも約束は約束だしなぁ…」
「裕香が良いならそれでいいじゃないですか。」
「いや、そうは言っ……え、誰だ!?」
「こんばんは、裕香。相変わらずマジックが上手だね。」
いつの間にか二人の背後に背の高い男が立っていた。
全くの足音、気配無しに近づいてきた彼に、志乃は思わず後ずさりする。
冬なので日が落ちるのが早いせいでもあるだろうが、急に空が暗くなってきたのも余計に不気味だった。
「みさかきさん。」
みさかき―三榊と呼ばれたその男性は、裕香に優しくほほえみかける。
親しげな二人を交互に見て志乃は驚いた。
「裕香ちゃん、この人はあんたのおじさんか?」
「えーと、おじさんではないんだけど…」
「はは、安心して下さいよ。ええ、志乃さんでしたっけ?裕香は他人ではないんです。
裕香、この志乃さんの代わりに私が何かあげよう。クリスマスだからね。」
「え…いいの?実は欲しいものがあるんだけど…」
「ああ、買ってあげよう。それでは志乃さん、裕香を視てくれてありがとう。また会いましょう。」
「おじさん、またね。」
「お、おう。またな…」
ぽかんとしていたが、裕香と手を繋いで歩いていく三榊が安全そうなことを確認できたので、まぁ、と呟きながら八百屋へ入ろうとする。
「まぁ、裕香ちゃんが一人じゃなくなったんならいいか…ん!?」
志乃はその時、羽織っていたコートの右ポケットにいつの間にか入っていた”それ”を発見してしまった。
そして、しばらくそれをじっと見て…口角が微妙に上がった。
「なるほど、愛されてんだねぇ…」
志乃は苦笑いをしながらそれをポケットになおす。
それ―簡単なメモ書きには、「裕香の前なのでああ言いましたが、約束は約束なので… 三榊晃司」とメッセージ、その下には裕香の好む物のリスト、裕香の家の住所が書き連ねてあった。
「俺がサンタになれってわけ。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「裕香、おかえり。」
「お母さん…ただいま。」
「ん、ママって呼んでくれないの?」
「……」
裕香はこのやり取りに内心うんざりしていた。彼女はこの母のことは正直あまり好きではない。
だから、マジックショーをしてきた、とは言わず、智子の家でパーティーを楽しんだと嘘をつく。
「今日は朝言ってた通り、智子の家でクリスマスパーティーをしたんだよ。凄く楽しかった。」
(それにしても、なんで智子は出てきてくれなかったんだろ?そもそも人の気配が無かったんだけど…)
「へえ。…そう。」
「!……ねぇお母さ…」
違和感を覚え、裕香は咄嗟に顔を上げ、母の顔色を伺う。
「メリークリスマス、裕香。」
だが、この母親はにっこりと笑って、静かに裕香の背面にある扉を閉めた。
この時から3年後である今の裕香は、魔界へやって来た後この出来事を一切覚えていない。
だが、その魔界でクリスマス・サバトの特別な夜景を見た時、光り輝く街を見て、この出来事を再び思い出した―というのはまた別のお話。
メリークリスマス。ここまでの閲覧ありがとうございました。
本日は12月25日、クリスマスということで、急遽小説未満のものを書き下ろしました。挿絵に関しては20分程度で描いたのでとんでもなく雑です。
今回はSubstory1にて登場する裕香が記憶喪失になる前、つまり魔界にやってくる前の裕香を主人公として書いていきました。
志乃や三榊と新たにキャラクターが増えましたが、後者に関しては後ほど沢山登場する予定です。
さて、次回からは引き続き、本編の続きをゆっくり記録していきます。更新をお待ち下さい。おそらく年明けかと思われます。
それでは皆様、良いお年を。
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