息子【短編小説】
一行小説最高ランク : 9 , 更新: 2018/03/16 21:23:41
それは何年も前の話。
「何よ、大金持ちの子供だからって良い気になっちゃって」
「あんな子供、きっと社会に出たらなんにもできないわよ、馬鹿みたい」
「どうせ親のコネでも使って良い暮らしするんでしょうね」
金ならたくさんあった。一生を生きていくのに、必要最低限のお金は。私は、多分働かなくとも生きていけたのだろう。いや、自分でも確かにそう思っていた。大きな会社の社長の父親と、若く美しい母親の間に生まれた恵まれし子供。それが世間のイメージだった。
周りにたくさん大人がいるとき、母親は、私の頭を良く撫でてくれた。とても優しい笑顔で。父親は「この子がどんな風に育ってくれるのか、今から楽しみです」「本当にこの子を生んで良かったと思いました。私はこの子に大いに期待しています」などと作文みたいな言葉をぺらぺらと綴った。母親の笑顔は「少し黙ってろよ」の合図で、父親の言葉は「せめて、私の名に恥じないように生きろよ」というメッセージだと、一体誰が気付いたのだろう。
家事手伝いの女性たちも、私や親の目の前ではたっぷり私を甘やかしてくれた。しかし、私の姿が見えなくなると、「大金持ちの子供」の悪口大会を始める。私は、良い気になどなっていないし、コネを使う気もなかったのに。彼女たちは、「良くある大金持ちの子供のイメージ」を私に貼り付けては、勝手に悪口を言っているだけだった。なんてナンセンスな。
「辛いよね、大丈夫?」「君は十分頑張ってるよ」「可哀想に……」そんな言葉が、嘘でもいいから欲しかった。少しの想いも籠もっていない高い洋服よりも、美しい宝石よりも、私は同情が欲しかった。私に手を差し伸べてくれる、本当の意味での優しい人間に、側にいて励ましてほしかった。それが虚構でも、私はそれで良かったのに。
しかし現実は残酷。どんなに助けを求めても、結局私は「大金持ちの子供」であり、「甘やかされた子供」なのであった。甘やかされて、金があって。そんな子供に、どこに可哀想と言える部分があるのだろう? 顔? そんなもの金で変えてしまえばいいだろう。私に向けられたのは、同情の目ではなく、皮肉で悪意のある言葉だけである。ここにいる限りーー親の側にいる限り、私は同情してはもらえないのだとその時やっと私は気付く。
その日は、朝からずっと晴れた日で、まさにお出かけにはぴったりという天気だった。私はリュックサックに荷物をつめて、自分の持つありったけの金を財布に入れた。その日、二十二時になるまで、私は自分の部屋を出なかった。私の部屋は一階の一番奥にある。ベッドに机、本棚、クローゼットくらいしか家具のない、殺風景な部屋。そこに、一つの大きな窓。二十二時、私は大きな窓を全開にした。
「さよなら」
自分は、今年で二十二歳になります。どうやら、私に貼られたレッテルは「大金持ちの子供」だけではなかったようです。母親から受け継いだ、美しい顔。社長と、社長夫人と、美しい息子。顔を変えない限り、私は「大金持ちの子供」として生きていかなければなりません。
私に同情の目が向けられたことは、二十二年も生きて、まだ、一度もありません。
✶
「同情するなら金をくれ」という言葉があるが、私はどちらかと言うと同情のほうが欲しい。
梨月ちゃんの企画「一行小説」に参加です。
私は同情よりも金が欲しいです(おい)
梓ちゃん➛読んでるだけで語彙力上がればいいのにね……()
うわ、まじか、バレたか()太宰意識したのバレたか〜!!!さすがだなァ……。
あ、やっぱり?((
まぎか➛汚いお金の世界で生きてるから誰よりもお金の恐ろしさを知ってるのよ……(適当)
梨月ちゃん➛本人が望んでいないし、本人に別に非があるわけでもないのに恨まれたり妬まれたりされるって辛いよね……。
うふふ、私お金があれば、本を買って読みながら一人で暮らしていくもの((
妃有栖
2018/03/17 5:21:02 違反報告 リンク
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